ユーグレナ・エアポート
創業原点の地バングラデシュで2014年よりスタートした、子どもたちの栄養課題解決を目指す『ユーグレナGENKIプログラム(以下、GENKIプログラム)』。2025年末、10年以上継続してきたこれまでの成果をまとめた「インパクト評価レポート」を公表しました。第1回では“継続11年の答え合わせ”として、手応えを数値化する覚悟に至るまでの葛藤を振り返り、第2回では“元気をどう測るのか”という問いに向き合いながら、健康のものさしを現地で作り直す過程をお伝えしました。
過去の記事
バングラデシュ事業編
第1話 『ユーグレナGENKIプログラム』継続11年の答え合わせに挑む
第2話 “元気”をどう測るのか?健康のものさしを現地から作り直す
「インパクト評価レポート」が完遂できたのは、日本チームの努力だけでなく、現地で走り続けたバングラデシュの仲間の存在が欠かせませんでした。これまでのGENKIプログラムの歴史の中でも、今回の調査は前代未聞の困難の連続。第3回目は、バングラデシュ事業部 部長 大西志麻里さんに激動の国家情勢の中で、彼女と現地の仲間がどのように現場を支え、調査をやり切ったのか、挑戦の舞台裏に迫ります。
現地の変化を見続けてきたからこそ、11年目に言葉以上の「証明」を届けたかった。
― GENKIプログラムをバングラデシュで広げてきて10年以上が経過しました。手応えとして今、どんなことを感じていますか。
現在、グラミンユーグレナの代表として、30名の現地の仲間と共に農業と栄養事業に取り組んでいます。GENKIプログラムの提携校は5校のスタートから約90校まで広がりました。先生やNGOスタッフからも、「子どもたちの欠席が減った」「身体が丈夫になった」という声を日常的にいただくようになっています。
なかでも、この10年以上という歳月の重みを実感するのは、卒業生たちの成長した姿を見ること。かつて支援を受けていた児童たちが大学生になり、母校の手伝いに来てくれるんです。先生が不足している学校では勉強を教えたり、後輩たちにユーグレナクッキーを配付したり。「クッキーを食べると勉強に集中できるよ」「学校に来るのが楽しくなるよ」と、自分自身の体験を次の世代へ伝え、今はプログラムを支える側になってくれています。その姿を目にするたび、この取り組みが確かに根付いてきたのだと実感します。
ユーグレナクッキーを受け取る子どもたち
― インパクト評価を実施すると聞いた時、率直にどんなことを思われましたか。
「やるべきである」そう思いました。
これまでも現地の声や仲間たちが綴るレポートの形で、感謝の気持ちや子どもたちの様子をお客さまにお伝えしてきました。ですが、支援を続けるだけでなく、その結果を説明できる「証明」が、11年の節目を迎え、より必要だと感じました。積み上げてきた子どもたちの変化を、主観ではなく、客観的な「数値」として示すこと。宮澤さんとも幾度となく話し合いを重ね、その想いと覚悟が合致し、インパクト評価の実施に踏み出せたことによろこびを感じました。
現地の仲間が足で切り拓いた、実地調査への道
尿検査の方法を子どもたちに説明する現地の仲間
― バングラデシュの仲間の協力が欠かせなかった今回の調査。大西さんは、現地でどのように活動されたのでしょうか。
わたしの主な役目は、まさに日本とバングラデシュのパイプ役に徹することでした。
現地では、4名の仲間を配置し、プログラム対象校から200名、非対象校から200名の合計400名の子どもたちを対象とした大規模な調査をする体制を整えました。
このプロジェクトを円滑に進めるためには、日本とバングラデシュ双方のスタッフが互いに実現したいことの背景や、その苦労を理解した上で、国境と言葉の壁を乗り越える必要がありました。たとえば、日本とバングラデシュでは休日も違えば、時差による連絡のとりづらさもあります。些細なズレであっても、距離が生まれないように、できる限りオンラインミーティングで顔を合わせ、直接対話を重ねる場づくりを心がけました。
特に苦労したのが、日本の法制度に基づく個人情報の管理を、バングラデシュの文脈にどう落とし込むかでした。児童の保護者から同意を得るプロセスひとつとっても、一筋縄ではいきません。特にスラム街で生活する方々は識字率が低く、ベンガル語で書かれた同意書の内容を読んで理解できる人はごくわずか。同意書を配るだけでは意味をもたないため、現地の仲間たちは400人の子どもたちの家庭に対し、内容が理解できるように調査の趣旨と目的を丁寧に説明し、ご納得いただいた上で全員分の同意を得てきたのです。
子どもたちの検査結果を確認する現地の仲間たち
調査が本格的に始まってからも、現地の仲間たちの活躍は目まぐるしかったです。調査の時間が少しでもずれると、整合性が取れなくなってしまいます。そのため、尿検査、食事の時間、移動。正確な分析を行うために、1日がかりの緻密なスケジュールを組み、調査対象となった全11校の学校を巡りました。まさに針に糸を通すような調整を遂行できたのは、現地の仲間たちの並大抵でない努力と根気があったからこそでした。
政変、休校。それでも「やらない」という選択肢は浮かばなかった。
― 2024年夏には、バングラデシュで長期政権が崩壊する歴史的な政変が起きました。調査への影響はありましたか。
はい。まさに調査の真っ只中の出来事でした。2024年7〜8月にかけて情勢が非常に不安定になりました。調査対象の全校が休校となり、クッキーの配付すら行えない時期が続きました。学校周辺でも暴動が起きるなど、緊張感がピークに達している中、調査をやり続けるべきか否かの厳しい判断が迫られました。
結果的に、クッキーの配付停止が一時的なものに留まったことから、調査を継続する判断に至りました。もし、休校が2〜3ヶ月以上に及んでいたら、中断せざるを得なかったでしょう。あの時ほどバングラデシュで活動することの難しさと、現場の重みを痛感したことはありませんでした。
― 想像を超える困難の中でも、大西さんを支え続けたモチベーションは何だったのでしょう。
日頃、現場で走り回って頑張っている仲間、クッキーを食べて元気に学校に通う子どもたちの姿を目にしている以上、インパクト評価を「やらない」という選択肢は、わたしの中に一度も浮かびませんでした。
正直、自分のモチベーションについてなど、そもそも考えたことすらありません。たとえ、政変という激流の中であっても、「子どもたちの未来のためにこのプロジェクトをやり切る」。その揺るがない想いが、日本とバングラデシュ、両方の仲間に行き渡っていました。その連帯こそが、今回のプロジェクトを完遂へと導いた最大の鍵だったと思います。
日本とバングラデシュの仲間と共に、インパクト評価の調査対象校を訪れる大西(写真中央)
次回はシリーズ最終回。本プロジェクトを牽引した宮澤さん・中島さん・大西さんの3名が再び集い、インパクトレポートの結果と、その先に見える「これから」について語り合います。
プロフィール
大西 志麻里(おおにし・しおり)
グラミンユーグレナ 共同最高経営責任者 バングラデシュ事業部 部長
2022年3月、ユーグレナ社に入社。4月に海外事業開発部へ配属され、9月からバングラデシュの駐在を開始。2022年よりバングラデシュ事業部部長を務め、2023年にグラミンユーグレナ共同最高経営責任者へ就任、現在に至る。
(第4回 未来への挑戦編に続く)
@クルーのみなさま
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