分類:食肉目ハイエナ科
シートン大友の百獣画録 第70話「肩身の狭い雄」
第15話で名誉回復を試み、第44話で名誉が怪しくなり、第62話で毛針を食べてさらに遠のいたハイエナの名誉回復シリーズも四回目になりますが、今回は名誉回復でも名誉失墜でもありません。ブチハイエナの群れの中で、雄がどのように生きているのかという話です。第30話でワオキツネザルの群れが雌優位のアマゾネス社会だとご紹介しましたが、ブチハイエナのアマゾネスぶりは、ワオキツネザルの比ではありません。
雄のブチハイエナは、大人になると生まれ育った群れを追い出され、別の群れに移ることになります。ここからが試練の始まりです。新しい群れに入った大人の雄は、群れの中で子供よりも格下に扱われます。雌への挨拶も、雌の機嫌次第では許されない場合があり、交尾のときの主導権も完全に雌にあるほどです。第14話のライオンの雄はタテガミの黒さで堂々と雌にアピールしていましたが、ブチハイエナの雄にそんな権利はありません。第69話のゾウアザラシの雄は力でハーレムの覇権を争っていましたが、ブチハイエナの雄はそもそも争う立場にすらないのです。
そしてこの格差は、食卓にも如実に表れます。群れのメンバーと共同で狩りをして獲物を仕留めても、格下であるが故に貰える分け前が少ない。そのため雄は雌よりも多い回数で単独の狩りをしなければなりません。テレビでよく紹介される「獲物を横取りするハイエナ」という映像がありますが、あれはこうした雄の個体が多いのではないかと私は睨んでいます。第15話で「あれは横取りしようとしているのではなく、ライオンに奪われた自分達の獲物を取り返そうとしている」と書きましたが、もうひとつの可能性として、群れで十分な分け前を貰えない雄が、単独で食料を確保しようとしている姿だったのかもしれません。しかも、苦労して単独で仕留めた獲物も、雌に見つかれば大人しく差し出さなければならないというのですから、雄の立場は厳しいとしか言いようがありません。
ライオンの雄は群れの王として君臨し、ゾウアザラシの雄は力で覇権を勝ち取る。動物の世界では雄が威張っているイメージが強いかもしれませんが、ブチハイエナの雄に限っては、威張るどころか子供よりも格下です。第15話から続くハイエナの名誉回復の道のりはまだ遠いですが、雄のハイエナにとっては名誉よりも今日の食事の方がよほど切実なのでしょう。・・・「肩身の狭い雄」とは、なんとも気の毒な肩書きです。