「よほう」
眠い目をこすりながらフライパンに油をひいて、コンロに火をつける。
だんだんと温まるフライパンの温度をゆっくりと感じながらベーコンを手に取った。
滑らせたベーコンが「ぺちゃ」と音を立ててじんわりと温まっていく。
換気扇をつけるのを忘れていた。冷蔵庫から卵を取り出してベーコンの上に落としたあと、煙草に火をつけた。ぱちぱちという音を聞きながら煙を吹き出す。
今日はどうやら一日曇りらしい。案の定テレビの電源をつけると、つまらなそうな顔をしたニュースキャスターが風車の前で本日の天気予報を読み上げている。風も少し強いみたいだ。
気づくと卵の黄身が固く焼きあがっており、慌ててフライパンから皿に移した。
ベーコンが少し焦げていたが、これでいい。
サラダとベーコンエッグをほおばりながらテレビの前に座ると、すでに次のコーナーへと変わっていた。
朝食をすませた後、食器を洗いに戻ると、フライパンが急にコンロから転がり落ちて、危うく火傷をするところだった。危ない。
さっと冷水に通していつも通り朝の支度をすませた。
次の日、起きてリビングへ向かうと洗い場にさらしていたはずのフライパンがリビングのフローリングの上に居座っていた。取っ手が部屋側を向いていて、持ち主の存在などつゆしらず、外の景色を見ているかのようだった。
それからというもの、毎朝フライパンはベランダの前に座り込んで、空ばかり気にしているようだった。
一か月ぐらいたった頃、私はあることに気づいた。フライパンが窓を見ていると天気が晴れて、窓に背を向けていると雨が降るのだ。
晴れの日のフライパンは、内側で日光を受け止めるようにじっと座っている。それを見て、フライパンを天気予報代わりに使わない手はないと思い至る。
おかげで朝の退屈そうなニュースのジングルとはおさらばし、静かな海の音と共に目覚めることが出来た。これはありがたい。
ただ少し怖かった。
私の思い込んでいることは偶然で、そもそもフライパンごときには意思などないのは明白である。
ただ、気づいてから一週間ぐらいの天気は的中していた。
ついに私は職場の友人にこのことを話した。友人はなんだか笑顔のような微妙な表情をした後に、
「私もそれやってみようかな」
といって自炊もしないのにフライパンを買うのだと言った。
今思うと少し馬鹿にされていた気がする。
その後、私は傘を持って廊下を歩いていた。みんなが不思議そうにこちらを見ている。
「今日って雨の予報だっけ?」
とでも言いたげな表情がたくさんこちらを向いていたので、気まずくなってそそくさと家路につくことにした。
だって、フライパンが教えてくれたのだから。と頭の中でつぶやいていると、案の定雨が降り出した。フライパンに少し感謝しながら傘を広げた。
それからというもの、私はもうフライパンを使わなくなってしまった。
なんだか生きているような気がして、火にかけられなかった。
今日もまた、天気を教えてくれるのだろう。そんなことを思いながらリビングへ向かう。
フライパンはさかさまに落ちていた。
Written by Shuann
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